2005年2月20日日曜日

『¥がなくてもできる中小企業の上手なメディア活用法 』ベンチャーリンク 2005年2月号

エッセンスオブトップセミナー

¥がなくてもできる中小企業の上手なメディア活用法
(平成16年10月開催の東京ビジネス・サミット経営セミナーより)

講師 「モノ・マガジン」ライター
島田 昭彦氏


「良いものをつくっているのに、なかなか世の中に認知されず、売り上げが伸びない」「とはいえ、宣伝費に多くの予算をかけることはできない」。そんな悩みをかかえる企業は多いはず。

しかし、お金がなくてもできるメディア活用法がある。

これまで雑誌の編集に長く携わり、そして、最近では実際に仕掛ける側の活動も積極的に行う島田昭彦氏に、実際の事例に基づいた効果的なメディアの活用法、情報発信の仕方について聞く。

倒産寸前の染色工場が生み出した京友禅アロハ大ブレイクの仕掛け

あるとき、京都の友人から、相談にのってほしいと頼まれました。彼の家は、4代続く京友禅の染色工場。「最近、需要が急激に落ち込み、このままでは経営が成り立たない。工場をたたんで、駐車場かマンションに変えるしかない」とのことでした。

私自身も京都の生まれで、父は家紋を描く紋章工芸を営んでいました。京都の伝統工芸を守りたい、そんな思いは強くもっていましたので、なんとかして力になろう、そう決心しました。

実際に工場を見学させてもらったところ、熟練の職人が、ひとつひとつ手作業で、じつに美しく鮮やかな柄を染め上げていました。

せっかくこんなすばらしい技術をもちながら、それを経営に活かしきれていない。新たな需要をどう掘り起こすか―。色鮮やかな柄を見つめるうちに、これを現代の服にアレンジできないか、そうだ、アロハシャツにしてみたらどうかとひらめきました。

京友禅でアロハシャツをつくる。この提案に、彼は最初、戸惑いを感じていました。しかし、話し合いを進めるうちに、「大きな賭けですが、倒産するよりはマシ。やってみます」ということになりました。

こうして2003年春、新たな挑戦がスタートしました。

一番の問題は、世のなかにこの新商品をどう認知させるのか。倒産寸前の工場に大掛かりな宣伝を行う余裕はありません。

私は、雑誌メディアに、広告ではなく記事として取り上げてもらうにはどうすればよいか、戦略を練りました。

そして、いわゆる情報誌ではなく、たとえ発行部数が少なくても、ものにこだわりをもつ人が読んでいる雑誌、これに掲載されなければならないと考え、この点を重要視することにしました。そうした雑誌に、小さくても記事として載ることの意味と効果の大きさを、これまでの雑誌編集の経験から強く実感していたのです。

伝統的手法で職人が染め上げた京友禅アロハ。価格は1枚2万5千円。マーケットはどこにあるのか―。

アロハシャツを好む、いわゆる「アロハマニア」と呼ばれる人たちがいます。有名人のなかでは、たとえば、サザンオールスターズの桑田佳祐さん、J-WAVEナビゲーターのジョン・カビラさんなどがあげられます。

40歳以上、所得が高く、自分の生き方、ライフスタイルをしっかりと確立している男性―その象徴ともいえる情報発信力の極めて強い彼らに、このシャツを着てもらえば、間違いなく世間の注目は集まるはず。そう考え、このシャツのサンプルを直接、あるいは人づてにプレゼントしました。

結果は大成功。今までにない斬新なデザインの京友禅アロハは彼らの心をつかみ、あちらこちらで着てくれたのです。

そして、それを見たメディアから次第に取材の依頼が入るようになりました。露出が増えるにつれ、後追いの取材はさらに増えるものです。こうして半年で、約100誌ほどの取材を受けることになりました。

その結果、全国から注文が入るようになりました。旅行者が京都のショップにわざわざ買いに来てくれることもあります。現在、以前リストラで一度辞めてもらった職人も呼び戻し、来シーズンに向けてフル稼働で生産を進めているところです。

1食3万7千円以上のランチ、その背景にあるストーリーを伝える

京都嵐山の高級料亭。そこの若主人から、政治家や経済人の接待需要だけでなく、もっと開かれた店にして利用客を増やしたい―そんな相談がありました。

「30歳から45歳くらいまでの女性客を積極的に取りこもう」。そう私は提案しました。

酒井順子さんの著書「負け犬の遠吠え」のなかでもその年代の働く女性のライフスタイルが紹介されていますが、価値を認めたものに対して、彼女たちは、出費を惜しまない。海外旅行にも行き尽くして、今度は京都で本物の日本文化を学びたい、最近ではそうした志向が増えているのです。

彼女たちが読む雑誌に記事として取り上げてもらうためには、こんな料理がありますといったレシピを見せるだけでは、もはや意味がありません。女性誌の編集者の触手を動かすためには、その商品に、取材したくなるような話題性、ストーリー性をもたせることが何よりも必要なのです。

この料亭のランチは1食3万7千円から。しかし、その価格には意味がありました。たとえば、昆布にしても7種類以上を使用し、利尻から最高級のものを取り寄せるなど、徹底して素材にこだわりをもっているのです。

経費ではなく、自腹で食べにくる彼女たちは、価格に見合った価値という点には敏感です。なぜその値段がついているのか、ほかで食べるのとどう違うのか、その背景をしっかりと伝える必要があるのです。

そうした店からのメッセージ、商品にこめられたストーリーを雑誌メディアに流したところ、「ぜひ、素材の調達の場面を取材したい」、そう申し込みがありました。

また、彼女たちの多くはインターネットを活用していますから、ネットで店に関する情報収集、そしてそのまま予約もできるようにしました。

結果、こうした取り組みにより、女性の新規客が大幅に増え、顧客のクオリティーを下げずに、次の世代の客層を獲得することにつながってきています。

雑誌メディアはページのなかに写真があり、細かな情報があり、そして、その販売元の連絡先も掲載されています。しっかりとメッセージを伝え、そして、それを読み込んでくれる読者を獲得している雑誌、そこに記事として取り上げてもらうこと―企業にとって、これはお金がかからずにでき、しかも大変効果的な情報発信手段です。しかし、編集者に注目してもらい、記事として取り上げてもらう、このハードルが難しい。

プレスリリースを作成するなどして彼らに積極的に情報提供することはもちろんですが、先にお話ししてきたように、いくらよい商品であっても、記事として取り上げてもらうためには、そのなかに取材したくなるような話題がとりこまれているか、ストーリーが組み立てられているか、それがとても重要なのです。

そして、さらに、メディアに露出することで得られる、忘れてはならないもうひとつの効能があります。それは注目されることで、そこで働く社員のモチベーションが大幅にアップすることです。私が相談を受けてきた企業でも、世間から注目が集まることで、社員のあいだから、次々と新しい提案が出てくるようになるなど、目に見えた変化があらわれていると聞いています。


このコーナーは(株)ベンチャー・リンク、または金融機関様主催の各種経営セミナーのなかから、とくにご好評いただきました講演をもとにその内容をダイジェスト版コラムにしてお届けするコーナーです。

島田 昭彦(しまだ あきひこ)

1964年3月1日京都市生まれ。87年立教大学卒業。 91年より10年間、スポーツ総合雑誌、「スポーツグラフィック・ナンバー」の編集に携わる。オリンピック、サッカーワールドカップなどスポーツ取材のため世界100カ国を東奔西走。近年は国内外で得た人脈を活かし、出身地、京都の伝統産業再生プロモーションを行なう。自身もメディアに登場し、「fromKYOTO」と題して、KYOTOのよきものを、全国へ、世界へ情報発信を展開中。和のモダンスタイルを提唱し講演活動もこなす日々。現在、雑誌「モノ・マガジン」では、made in KYOTO新芸品のディテールの連載、ラジオでは、J-WAVEプライムアングルのナビゲーターを務めるなど、各メディアでの文化活動の領域は、多岐に渡る。 

メールアドレス:info@clip-fromkyoto.com まで