新発想伝統に注ぐ
京都の文化や伝統産業と企業やクリエーターを引き合わせ、新たなモノを生み出すプロデューサーとして国内外で活躍する。サントリー・伊右衛門のカフェ「IYEMON SALON KYOTO」(京都市中京区)なども手掛けたクリップ社長の島田昭彦さんが京都の魅力を再確認したのは海外だった。
「実家は代々着物に家紋を手描きする職人でした。正直少年時代には魅力を感じず、外の世界を見てみたいと大学は東京へ行きました。理解できるようになったのは海外の仕事を経てからです。イタリアのペルージャへサッカーの中田英寿さんの取材に行き、切符売りの女性に京都から来たというと『世界遺産が17ある街でしょ』と言われ驚きました。京都で育った自分より小さな町の外国人の方が関心が高い。海外で京都のまなざしの熱さを知ったのが、地元を見直す転機でした」
京都の文化が世界に影響していたことが現在の仕事につながっている。
「海外で仕事をするうちに京都を世界に発信できると確信を深めました。京都でお世話になったので地元に貢献しようと41歳で起業しましたが、京都では和装が低迷していた。そこで亀田富染工場と出会い、京の技を生かした京友禅アロハシャツが成功した。僕は外の世界を知っていて、京都に何が求められているか市場調査ができていた。成功の予感はありました。京和傘の日吉屋との仕事では、引き合わせたのがインテリアとしての照明器具です。でもただの職人が傘に照明をつけてもよい商品はできない。プロデューサーとして新しいアイディアを注入し、デザイナーと職人と話し、束ねることで商品化できました。『伊右衛門サロン』もサントリーから話が来て、知人の呉服製造卸の千總と引き合わせた。文化が違うけれど合わせれば面白いと感じた瞬間です」
京都の人が地元の文化を見直すには何が必要なのだろう。
「京都のよさは外に出てこそわかります。僕の仕事は常に第三者目線が大切。外の文化を翻訳して京都の人に伝える力が必要です。京都には文化力があるから引き寄せられる。観光でも文化がないと人はお金を払いません。何かを学びたい、刺激を受けたいという需要は確実に増え続けています」
パリコレクションでは和装の技術を活用したドレスを出展するプロジェクトを成功させた。
「桂由美さんの協力で出展したパリコレは京鹿の子絞りの技が好評でした。京都ほど精密な技術はほかにはありません。3月には青蓮院で作品を外線展示しました。京都発の技が最高峰の舞台で称賛を浴びた作品を見られる機会だったと思います。シンポジウムでは桂由美さんや職人の話が聞けたと好評でした」
京都の観光に求められることは島田さんの仕事と同じく「第三者目線」と言い切る。
「外国人観光客向けの表示案内が不足しています。お茶の淹れ方、お風呂の入り方、トイレの使い方も英語で書くなど、外国人の気持ちで検証した細やかな気配りが必要です。京都について外国語で説明できる人を増やすことも大切。受け入れ側の心と物理的な準備を常に向上させる必要があります。土産品も今後は、『地産多消』の意識が必要です。今回のパリコレクションのように京都で作り、パリで見せる。それを買い求めに京都に来てもらう構造が出来れば観光にも結びつく。今回がその事例になればいい。
企画に関わったデザインホテル『ザ・スクリーン』では13室を13人のクリエーターがデザインするコンセプトで海外客をターゲットにしました。誰に的を絞るのか、立ち返って考える事例です。京都はモノづくりのまちで考え方にお金を払う意識があまりない。形のないソフトや企画にお金を払い、文化を作る習慣がこれからは大切になる。つくる力1に対して、伝える力を5倍かけないとモノやサービスは広がりません」